田中長者(日田)

昔、中大山に田中長者と呼ばれる、野崎正房という大金持ちがいた。

財産が多く、金のあるにまかせて、栄耀栄華に明け暮れ、権威を振っ ていたが、数多くいた使用人達に、無理な農作業をさせたり、人々の言 葉に耳を傾けることもなかったので、人々の信望は薄かった。

その報いかどうか、家には不幸が続き、凶作の時は、よそのどの家よ り被害が著しかった。しかし、誰も長者に協力しようとする者はなく、 しだいに家運は傾いて行った。

ぜいたくな暮らしに慣れてしまった長者夫婦は、子どももいないとい うこともあってか、家を再建しようという努力も気概もなかった。

財産を少しずつ処分しながら、その日の暮らしをたてていたが、やが てそれも尽き、住む家もなぐしてしまった。

そしてついに夫婦は、中大山の東の方に当る若宮川原の石の上で、悲惨な 最期をとげてしまった。

この石は、『寝形石』とも『寝床石』とも、又、『長者石』とも呼ばれ、現 在、大山の八幡家の裏におかれている。

田中長者の屋敷が、どこにあったかということを知っている者は維もいな くなり、その家系も絶え果てたといわれている。